廃基板が再び金属になるまで―DOWA小坂製錬を訪ねて

パソコンの基板や使われなくなったスマートフォンから、金・銀・銅などを取り出す――。

秋田県小坂町にあるDOWAグループの小坂製錬株式会社(以下、小坂製錬)は、使用済み電子機器などを資源としてよみがえらせる「リサイクル製錬」の中核拠点です。

今回の視察では、廃棄物に見えるものが、どのような工程を経て再び金属になるのかを見学させていただきました。そこで見えてきたのは、最新設備だけではなく、140年以上にわたって受け継がれてきた技術と地域の歴史でした。

小坂製錬への訪問にあたり

  • E-scrap・廃基板
    使用済みの電子機器や部品などから発生する電子スクラップのこと。廃基板には、銅のほか、金・銀・パラジウムなどの有価金属が含まれています。
  • TSL炉
    「Top Submerged Lance炉」の略称。溶融物の中にランスと呼ばれる筒を差し込み、酸素や空気、燃料などを吹き込んで原料を溶かす炉です。性質の異なる多様なリサイクル原料を処理できます。
  • メタル
    炉の中で溶かされ、スラグと分離された金属成分のこと。小坂製錬では、このメタルをさらに処理し、銅や金、銀などを回収します。
  • ダスト・煙灰
    製錬時に発生する排ガスに含まれる細かな粒子のこと。鉛や亜鉛などの有価金属を含むため、集じん設備で回収し、別の工程で再び資源として利用します。
  • スラグ
    製錬によって金属成分を分離した後に残る、酸化物などを主成分とする溶融物です。処理の途中では有価金属が残ることもあるため、必要に応じて回収・再処理されます。
  • 湿式処理
    酸やアルカリなどの溶液を使い、原料に含まれる金属を溶かして分離・精製する方法です。金属ごとの化学的な性質の違いを利用して、目的の金属を効率よく取り出します。

小坂製錬とは

小坂製錬所

小坂製錬は、DOWAグループの非鉄金属製錬を担う事業所です。現在は、使用済みパソコンや通信機器の基板、スマートフォン、半導体部材、他の製錬所から発生する残渣などを原料として受け入れています。

そこから金、銀、銅、鉛をはじめとする約20種類の金属を回収し、再び工業原料として社会へ送り出しています。社会の中に埋もれている金属を掘り出す、いわば「都市鉱山」の製錬所です。

視察で目にした電子基板は、大きさも形もさまざまでした。一見すると廃棄物ですが、内部には金、銀、銅、スズなどの有価金属が含まれています。小坂製錬にとって、これらは捨てるものではなく、金属を生産するための大切な原料です。

原点は「黒鉱」の製錬

DOWAと小坂の歴史は、1884年に前身の藤田組が小坂鉱山の払い下げを受けたことから始まります。

小坂鉱山で採掘されていた代表的な鉱石が「黒鉱」です。黒鉱には、銅、鉛、亜鉛、金、銀など、さまざまな金属が含まれています。多種類の有価金属を含むため「金属のデパート」と呼ばれることもあります。

しかし、金属が複雑に混ざっているため、製錬は簡単ではありません。目的の金属以外の成分が、炉の操業や電気分解を妨げることもあります。

小坂では、1902年に黒鉱の自溶製錬を開始。その後も、不純物と考えられていた成分を分離し、有価金属として回収する技術を磨いてきました。1975年には湿式煙灰処理工場が稼働し、黒鉱に含まれる多様な金属を回収する体制が整えられました。

この技術が、現在のリサイクル製錬につながっています。

小坂製錬の歴史に根ざした技術

小坂製錬所の歴史

小坂製錬の歴史は、明治時代までさかのぼります。小坂鉱山で採掘した鉱石を製錬し、日本の産業を長年にわたって支えてきました。

時代の変化とともに、小坂製錬も新たな道を歩み始めます。2008年にはTSL炉の操業を開始し、原料の中心を鉱石から、使用済み電子機器などのリサイクル原料へと転換しました。

現在は「都市鉱山」を活用する、世界でも数少ないリサイクル製錬所として、電子基板などから有価金属を効率的に回収。資源を循環させ、持続可能な社会の実現に貢献しています。

小坂の地で育まれてきた製錬技術は、時代のニーズに応えながら、今も進化を続けています。

廃基板が金属になるまで

リサイクル原料は、いくつもの工程を経て金属へと生まれ変わります。

最初に行われるのが、原料の受け入れと分析です。廃基板は、製品の種類や製造年代によって金属の含有量が異なります。そのため、原料の一部を採取して成分を分析し、価値を評価するとともに、炉へ投入する原料の組み合わせを調整します。

次に、調合した原料を「TSL炉」と呼ばれる炉へ投入し、高温で溶融します。

溶かした原料は一つの液体になるのではなく、比重や化学的性質の違いによって、銅や貴金属を含むメタル、鉛などを含む煙灰、スラグなどに分かれます。

分けられた成分には、湿式処理、電気炉処理、電気分解などを施します。銅系のメタルは粉体化、溶解、電解採取などを経て電気銅になります。金や銀などは溶解残渣に濃縮され、貴金属工程へ送られます。鉛を含む成分は別の工程で処理され、電気鉛やビスマスなどになります。

一度炉で溶かせば、すぐに金地金ができるわけではありません。それぞれの金属の性質を利用し、複数の工程をリレーさせながら、少しずつ分離・濃縮していくのが製錬です。

複合リサイクル製錬フロー

中核設備「TSL炉」

小坂製錬の中核となる設備が、2008年から本格稼働しているTSL炉です。

TSLは「Top Submerged Lance」の略です。炉の上部から溶融物の中へランスと呼ばれる管を入れ、空気や酸素、燃料などを吹き込んで激しく撹拌します。

以前使われていた自溶炉は、主に鉱石を処理するための設備でした。鉱石に含まれる鉄や硫黄が酸化するときの熱を利用するため、リサイクル原料だけで操業することには構造的な制約がありました。

これに対してTSL炉は外部から熱を供給します。そのため、鉱石に熱源を依存せず、形状、水分、組成の異なるリサイクル原料にも柔軟に対応できます。

これによってリサイクル原料100%での操業を可能としています。

リサイクル製錬 TSL炉

また、酸化、還元、スラグに残る金属の回収という複数の反応を1基で行えるため、従来より工程を短縮できる点も特徴です。

金属として回収されなかったものはどうなる?

廃基板には、金属だけでなく、樹脂やガラス、セラミックスなども含まれています。製錬工程では、これらの成分も性質に応じて処理されます。

基板に含まれる樹脂などの可燃成分は、TSL炉の中で高温分解・燃焼され、一部は製錬に必要な熱として利用されます。

排ガスとともに発生する「ダスト・煙灰」には、鉛や亜鉛などの金属が残っているため、集じん設備で回収し、湿式処理やグループ内の別の製錬工程に送って、さらに金属を取り出します。

一方、金属から分離された酸化物やガラス質の成分は「スラグ」となります。スラグに残る有価金属をできるだけ減らすため、操業条件の改善や必要に応じた再処理が行われます。

それでも資源として利用することが難しい残渣については、有害物質が外部へ流出しないよう無害化・安定化したうえで、管理された最終処分場で適切に処分されます。工程で使用した水も、金属や有害物質を除去して水質を確認してから、再利用または排水されます。

リサイクル製錬とは、廃棄物をまったく発生させない仕組みではありません。回収できる資源を可能な限り増やし、残ったものを安全に処理することで、天然資源の使用量と最終処分量の両方を減らす取り組みです。

約20種類の金属を回収

小坂製錬の製品
※生産量は2020年度実績。原料構成や生産量は年度によって変動します

小坂製錬では、金、銀、銅、鉛、スズ、アンチモン、ビスマス、粗硫酸ニッケルなどを製品化しています。このほか、セレン、テルル、白金族、ガリウム、インジウムなども回収しています。

これほど多くの金属を回収できる理由は、TSL炉だけではなく、銅製錬、鉛製錬、湿式処理、電解、貴金属精製など、性質の異なる複数の工程を備えているからです。

金や銀といった価値の高い金属だけを取り出すのではなく、原料に含まれる幅広い金属を可能な限り製品にする。この「回収できる金属の多さ」が、小坂製錬の大きな特徴です。

秋田県内でつながる資源循環

小坂製錬の資源循環は、一つの工場だけで完結しているわけではありません。

例えば、小坂で分離された亜鉛を含む成分は秋田製錬へ送られます。一方、秋田製錬の亜鉛製錬で発生した、鉛、銅、金、銀などを含む残渣は、小坂へ送られて処理されます。

秋田県北部には、家電の解体、廃棄物処理、金属回収、最終処分などを担うDOWAグループの事業所が集まっています。それぞれの施設が得意な工程を分担することで、回収できる金属を増やし、リサイクルできないものについても無害化や適正処分を行っています。

小坂製錬の競争力は、単独の設備だけではなく、秋田県内に形成された「製錬・リサイクル複合コンビナート」によって支えられています。

DOWAのリサイクルコンビナート

DOWAグループ連携の詳細

環境への貢献と今後の課題

使用済み製品から金属を回収することは、天然資源の有効利用や廃棄物の削減につながります。

一方で、リサイクルだから環境負荷がないわけではありません。製錬には高温処理のための燃料や電力が必要です。鉛などを含む原料を扱うため、排ガス、排水、ダスト、スラグを安全に管理する設備も欠かせません。

小坂には、過去の鉱山開発による森林伐採や、製錬排ガスによる煙害で森林が失われた歴史があります。その後、植林や森林再生が進められてきました。現在の環境管理や資源循環事業は、過去の経験と対策の積み重ねの上に成立しているといえます。

今後は、世界的なE-scrapの集荷競争、電子機器の省金属化による原料品位の低下、既存設備の更新、省エネルギー、CO₂排出量の削減などが課題になります。

小坂製錬は完成された施設というより、社会や製品の変化に合わせて、扱える原料や回収できる金属を広げ続けている製錬所なのです。

視察を終えて

今回の視察で最も印象に残ったのは、「廃棄物」と「資源」の違いは、そこに含まれる価値を取り出す技術があるかどうかで決まる、ということです。

使われなくなった電子基板も、小坂製錬では金、銀、銅、レアメタルなどを生産するための原料になります。

それを可能にしたのは、まったく新しい技術だけではありません。かつて黒鉱という難しい鉱石に向き合い、試行錯誤を重ねてきた人々の知識と経験です。

鉱山の町で培われた「地中から金属を取り出す技術」が、現在は「社会に埋もれた金属を取り戻す技術」へと姿を変えている――。
小坂製錬は、産業の歴史を未来の資源循環につなげている場所でした。